【銘柄分析】AusNet Services(AST)〔2015年3月期〕

ASX上場のオーストラリア株であるAusNet Services(ティッカーコード:AST)の分析記事となります。2015年9月5日現在配当利率が5%を上回っている高配当銘柄になります。

会社概要

オーストラリアのヴィクトリア州の、送電網、配電網、ガス導管網の管理・運営を行うインフラ会社。2006年にASX上場。本拠地は州都のメルボルン。Ausnet Servicesのホームページはこちら

総延長50,000kmを超える送電網・配電網と総延長10,000kmを超える導管網を所有・運営している。

会計年度は4月~3月。2015年3月期の売上は18億豪ドル(円/豪ドル=90円で1,620億円)、純利益は3.1億豪ドル(279億円)(※税額をめぐるオーストラリア国税との争いの和解金2.9億豪ドル(特別損失)を加味すると純利益は2,260万ドル)。

2015年9月7日現在、時価総額は45億ドル(4,050億円)、PERは(特別損失を無視すると)14.4倍。配当利率は6.43%あり、高配当銘柄といえる。株価はグーグルファイナンスで確認できる。

財務諸表分析

AusNet ServicesのAnnual Reportから過去10年間の財務数値をエクセルでまとめた。

Aus BS

  • 純利益率は高く、コンスタントに利益を伸ばしている。(2006年は資産売却により特別利益が発生。)
  • 投下資本利益率は3%と低い。つまり高収益ではないものの安定的な利益を生む資産を保有している。これは送電線、配電網、ガスパイプラインなどのインフラ資産を保有する会社の特徴といえるだろう。

2015年3月31日のバランスシートは以下の通り。2015年AusNetビジネスレポートの19ページのバランスシートを日本語でまとめた。

AusNet Balance

  • 有利子負債比率は76%と高い。インフラビジネスなので確実に売上が立つので利払いに困ることはないだろう。

キャッシュフローの推移は以下の通り。
Aus Cashflow

 

フリーキャッシュフローは継続的にマイナス。借入金と増資により規模拡大を図っていると考えられる。安定的なインフラビジネスということで資金の出し手はすぐ現れるのだろう。

投下資本利益率は低く、キャッシュフローが追いつかず外部から資金調達している。投下資本利益率が3%程度で高収益なビジネスとはいえないが、配当利率が高い。

ビジネスモデル分析(高収益の原因)

AusNet Servicesは上記の通り、ヴィクトリア州内の送電網・配電網・ガス導管を所有している。これらの資産は政府の規制機関(Australian Energy Regulator, AER)に料金規制を受けている。

AERは5年に1回料金改定を行う。電気やガスの需要予測、将来の補修費用、操業費用、資本コスト、法人税額などを勘案してAusNetの売上高を決定し、売上高に基づいて料金を決める。AusNetはぼろ儲けはできないものの、確実に収益をあげることができる。AERにより決定されたAusNetの売上高はAERホームページで確認できる。

AusNetは日本のインフラ会社と違い、需要家に電気やガスを販売しない。電力会社やガス会社から送電網、ガス導管網の使用料を受け取るというビジネスモデルである。燃料調達費用に関わらず確実に設備利用料を受け取るため、日本の電力会社やガス会社よりも安定しているビジネスといえる。

競合企業の新規参入

送電網・配電網やガス導管網は初期投資が莫大で、規模の経済が働き、後発企業は先行企業よりも平均費用が高くなってしまうという典型的な自然独占事業。同じ地域に2つの独立した送配電および導管ネットワークが存在する意味はない。よって新規参入は不可能といえる。

無形資産

AusNetは政府よりヴィクトリア州の一部で送配電網とガス導管網を所有・運営する認可を得ている。政府認可が無形資産といえる。

スイッチングコスト

ヴィクトリア州のAusNetが設備を保有する地域において、電力会社やガス会社はAusNetの送配電網もしくはガスパイプライン網以外を使う選択肢がない。AusNetが独占している。

ネットワーク効果

AusNetの送配電網やガス導管網に接続される需要家が多ければ多いほど、1件あたりのコストが下がる。よってネットワーク効果は存在するが、その有無に関わらずそもそも独占している。

コスト優位性

独占しているのでコストの有無に関わらず顧客を独り占めできる。さらにAusNetが頑張ってコストダウンを図っても、5年に一度の料金改定で、「コストダウン努力後」の費用が基準となって新料金が決めたれるので、AusNetにとってあまりコストダウンに取り組むインセンティブが無いと思われる。もちろん、あまりに杜撰な経営をしてコストが青天井にならないよう政府により規制を受けている。

まとめ

政府より送電・配電網やガス導管網の所有・運営を認可されている、ということがAusNetの最大の強みといえる。料金規制により確実に儲けが出るようなビジネスモデルである。その代わり利益の上ぶれも期待できないともいえる。

最近の状況

  • シドニーが州都のニューサウスウェールズ州政府が公営の送電・配電網管理運営会社「Trans Grid」の民営化を発表。Trans Gridの資産を買収すべくAusNetは増資を目論んだが、2015年7月に大株主のシンガポール電力と中国の国家電網公司に反対され、買収をあきらめている。
  • オーストラリア国税との税査定に関する争いが決着し、2014年/15年は2.9億ドルを特別損失に計上。

リスク

  • 5年に一度の料金改定で、政府機関(AER)から不当に安い料金設定を結論づけられた場合、赤字になる可能性がある。とはいえ、そうなるとコストダウンのために手を抜いた管理が横行し、結果としてインフラ資産を既存してしまうことになるため、政府も不当に安い料金設定を強制するインセンティブは持っていないと考えられる。
  • オーストラリア政府機関による予測レポートによると電力消費は今後伸びない模様である。むしろソーラーパネルの急速な普及で電力需要が低下している。ガス需要もソーラー給湯器などの普及で将来的にはマイナスになる可能性もある。実際、2015年AusNetビジネスレポートの顧客1件あたりの需要量は電力が-1.6%、ガスは-4.2%と下がっている。(その代わり送配電網や導管を伸ばして顧客数(メーター取り付け数)を電力、ガスそれぞれ約1万件(1.6%増)、約1.4万件(2.3%増)増やしているが)。各種新聞記事によるとヴィクトリア州の隣、サウスオーストラリア州ではソーラーパネルにより電力需要が急激に下がっているようである。
  • 発電施設が余り出しているほか、電力需要減により1単位あたりの送配電コストが上昇し、需要家から「送配電コストが高すぎる」という声も上がっている。また、高い電気代を少しでも安くするためにソーラーパネル設置が加速しているようでる。AusNetとしては電気ガスの使用量が増えないと設備利用料が増えないため、現在の状況が続くと売上減になる可能性がある。

今後の展開

民営化された政府資産の買収による成長、蓄電池等の新サービス展開を考えているようである。しかし、上記の通りTrans Gridの買収は大株主に反対され、新サービスは対して大きな売上にはつながらないだろう。となると現状の売上が続くことになると思われる。

 

過去の株式バリュエーション

グーグルファイナンスで現在の株価は確認できる。過去のPERや配当利回りは下記の通り。

Aus配当

  • PERは15倍程度。配当利率は5~10%をうろうろしている。配当利率は高い。
  • 株式発行数が年々増えている。(1株あたり利益や配当金は、単純にその年度末の株式発行数で割って算出している。)

分析を終えて

AusNet Servicesは過去10年間常に配当利回りが5%を超えています。ビジネスモデルからして安定的に収益を得られるため、今後も5%程度の配当利回りを期待できると思います。この高配当利回りは、日本企業にはない魅力ではないかと思います。

政府から送電網・配電網・ガス導管網の所有・運営の認可を取り消されるリスクは非常に低いでしょう。それに政府が不当に低い料金価格を無理やりAusNetに押し付けるリスクも低いと思います。上記にも書きましたが、設備の修繕のためにある程度の売上を保証してやる必要があるからです。これは総括原価方式で売上が決まる日本の電力会社やガス会社と同じでしょう。日本の場合、来年以降自由化がなされますので状況が変わるかもしれませんが。

最大の脅威はソーラーパネル、ソーラー給湯器の普及に伴う電力・ガス需要の減少です。オーストラリアは日本と違い家が大きく、当然屋根も広いのでソーラーパネル大量に置くことができます。電力会社から電気を買わなくても自宅に設置したソーラーパネルの電気だけで暮らせるようになる家が増えていく可能性があります。特にソーラーパネル・蓄電池が組み合わさると、夜でもソーラーパネルで発電した電気を使えるわけで、ますます電気がいらなくなります。ただで電気が手に入るので、ガスコンロやガス給湯器を電気機器に買い換えて、ガスを使わなくなる家も増える可能性があります。

今後もソーラーパネルや蓄電池の普及状況を確認すると共に、政府機関や各種研究機関がネット等にアップするヴィクトリア州の電力・ガス需要をチェックする必要があると思います。

とはいえ配当利回り5%超は魅力的です。もしこの会社の株を買ったら、配当を楽しみにするだけでなく、ヴィクトリア州の電力・ガス需要の動向を常にチェックしましょう。

 

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