【銘柄分析】Telstra(TLS)〔2015年6月期〕

ASX上場の通信会社テルストラ(ティッカーコード:TLS)の分析記事です。オーストラリア最大手の通信会社で、もともと国営企業が民営化された会社です。日本でいうNTT東西とNTTドコモを足したような会社になります。配当利率は5%を超えている高配当株です。

テルストラは1901年にオーストラリア政府の郵政省の中に設立された国営企業でした。オーストラリア政府が保有していたテルストラの株は1997年、1999年、2006年にそれぞれ放出され,現在では政府は株を保有していません。安定的な収益を上げている巨大な通信会社です。

会社概要

通信業界は非常に大まかに分けると以下の2つの市場でプレーヤーが競争している。

1.固定回線による通話およびデータ通信サービス

2.モバイル通話およびデータ通信サービス

テルストラはそれぞれの市場で通信サービスを行っており、両方で高いシェアを誇る。

固定回線サービス市場シェア: テルストラ41%、オプタス14%、iiNet15%、TPG12%、その他18%

モバイル市場シェア:テルストラ45%、オプタス27%、ボーダフォン18%、その他10%

(出典:ACCC,Australian Competition and Consumer Commission)

最大の競合はシンガポールテレコム(シングテル)傘下のオプタスである。近年iiNet等の競合企業が格安インターネットサービスの販売を進めており、通信業界の競争は激しくなりつつある。

オーストラリアの特徴は、人口のほとんどが都市部に住んでいるということにある。

2016TLS ausie populationオーストラリア大陸には2400万人弱の人口が都市部に集中(上記赤いドットの部分)しており、他の地域はほぼ人が住んでいない。通信会社としては、オーストラリアの田舎に通信設備を建設するインセンティブが全くない。

過疎地域に通信サービスを普及させるため、オーストラリア政府はUniversal Service Obligationなる法律のもと、テルストラに補助金を出したうえで過疎地での通信設備の建設を進めている。これがテルストラの競争上の優位性となると思われるが、後述する。

テルストラの会計年度は7月~6月。2015年6月期の売上は266.1億ドル(2兆2600億円、1豪ドル=85円で計算)純利益は43億豪ドル(3655億円)である。

2016年2月6日現在、時価総額は680億豪ドル(5兆7800億円)。PERは約16.5倍、配当利率は5.4%。株価グーグルファイナンスで確認できる。IR情報はテルストラIRページから確認できる。

財務諸表分析

Annual Reportよりテルストラの過去のデータをまとめた。

2015TLS revenue

  • 純利益率がほぼ15%超えと高い。
  • 投下資本利益率も15%前後とかなり高い
  • 年平均2~3%の売上・利益増。高成長ではないが、着実に成長している。

2015年6月30日のバランスシートをまとめると以下の通り。

TLS2015BS

有利子負債比率は約39%。安定的な収入が期待できる通信企業なので、このバランスシートで特に問題はないだろう。

キャッシュフローの推移は以下の通り。

2015TLS CF

  • 毎年巨額のフリーキャッシュフローを上げている。
  • 配当金は基本的にフリーキャッシュフローの範囲内で支払われている。急激な事業変化が起こらない限り、配当金をカットするような事態にはおそらく陥らないだろう。

ビジネスモデル分析(高収益の要因)

通信業界は典型的な自然独占が起こる業界である。初期投資(固定費)が莫大で、規模の経済が発生するため独占状態になりやすい。オーストラリアのACCC(Australian Competition and Consumer Commission、日本でいう公正取引委員会)が通信業界の規制を行っている。

テルストラはもともと国営通信事業であり、国有企業時代に建設されたオーストラリア全土にまたがる通信網を保有するという非常に有利な形で民営化された。

【競合企業の新規参入】

サービスを開始するのに少なくともオーストラリア都市部に通信網を建設する必要がある。この莫大な初期投資により競合企業の参入は活発ではないだろう。

【現状の競合状況】

固定通信とモバイルに大別される。上記と重複するが、テルストラは両市場で高いシェアを誇っている。

固定回線サービス市場シェア: テルストラ41%、オプタス14%、iiNet15%、TPG12%、その他18%

モバイル市場シェア:テルストラ45%、オプタス27%、ボーダフォン18%、その他10%

【無形資産】

まずは政府から通信事業の許可を得ていることが大きな無形資産である。テルストラは元国営企業で、全国に通信設備を保有していることから、競合のオプタスやボーダフォンと比較して非常に通信状況が良い。つまり、田舎に行っても電波がある、というのがテルストラである。

というわけで、オーストラリア人の中では「安定して通信がつながるのはテルストラ」という漠然とした先入観(ほぼ事実だが)があり、これによりオーストラリア国民はテルストラに対し追加料金を支払っているといえるだろう。実際に、外部機関のレポートを読むと、テルストラ利用者は超過料金を受け入れているようである。

【スイッチングコスト】

スイッチングコストは高いという分析結果が上記レポートには記載がある。競合に関する情報が不足しており、顧客は高いにもかかわらずテルストラを使い続ける、との記載がある。(しかしこのレポートはボーダフォン向けに作成されているのである程度割り引いて読む必要がある)

【ネットワーク効果】

テルストラに加入する人数が増えれば増えるほど料金が安くなるなどの利得は利用者には発生しない。競合のオプタスにはオプタス同士の通話は無料といった特典がある。(オプタスがこの特典を維持できるのは、比較的シェアが低いからだろう。)

【コスト優位性】

上記にも記載したが、オーストラリアでは、上記地図のとおり大陸のうちごく一部を占める都市部以外は、何もない大地である。つまり、通信会社としては、過疎地に通信設備を配置するインセンティブはない。過疎地に住む人々に通信手段を提供するため、オーストラリアではUniversal Service Obligation(USO)という法令の元、テルストラに対し補助金を出し、過疎地域への通信整備を促進している。テルストラは補助金で建設した通信インフラも活用しながらマーケットで競争している。競合他社は当然不満を表明しているが、オーストラリアの地理の特殊性が生み出すテルストラにとっての優位性といえるだろう。

【まとめ】

元国営企業が提供する安定した通信サービスという顧客受けの良さ(顧客による思い込み?)、地理的な特殊性に起因した政策による通信設備への補助金といった複合的な要因で、高収益が保たれているといえる。

リスク

  • テルストラにとって不利な形で通信政策が変更される。
  • 競合他社にシェアを取られる

以上が最大のリスクだろう。

1点目について、通信政策がガラリと変わることは考えにくい。しかしウォッチしておく必要はある。最近ではテルストラの保有していた固定通信ケーブルを強制的に公営のNBN Co(National Broadband Network)に売却させられている。この固定通信ケーブルへのアクセスを競合のオプタスやボーダフォンに開放することで競争を活発化させよう、というのが政府の狙いである。

2点目について、ここオーストラリアで暮らしているとテルストラの優位性はゆるぎないように感じる。オーストラリア人は基本的に金持ちで、少々の出費は気にしない。かつ、たまに田舎に旅行に行くときに電波がつながるテルストラの人気は非常に高い。

今後の展開

テルストラ自身は海外での収益を伸ばし、成長していくと述べている。個人的には海外の収益が本当に伸びるのかどうかは不明である。テルストラが海外でどのような競争優位を持っているのか、まだ分析ができていない。

各サービスごとの売り上げを各年のAnnual Reportから拾うと以下のとおり。

2015TLS Key performance

年によってサービスのセグメントが変わるため、どこにカテゴライズすべきか不明なところもある。また、具体的な数値を記載していないAnnual Reportもあるため不明な箇所は?としている。

大まかに傾向をつかむと、固定回線は売上を減らしており、代わりにモバイル、そしてデータ通信の売り上げが伸びている。

これからはモバイルそしてデータ通信が主力サービスといえるだろう。当然競合もこの市場に殺到するわけで、テルストラがどれだけ競争力を発揮できるか、常に注視する必要がある。

ここオーストラリアでは通信環境は日本と比較すると非常に悪い。つまり、何をダウンロードするにしてもデータスピードが遅い。人は「不満なサービス」に関しては追加料金を払ってでも不満を解消するため、ここしばらくは「最良の」データ通信を提供するテルストラの競争力は高いのではないかと思っている。

テルストラはデータ通信量を増やすべく、傘下のFoxtelの販売も進めている。Foxtelとはオーストラリアで人気のケーブルテレビであり、これを快適に見るためには一番強力な通信設備を持つテルストラと契約するしかない、という戦略だろう。

またテルストラは街中にWifiスポットを建設しておりデータトラフィックをWifiに負担させることで快適な通信環境を整備している。

以上を鑑みると、競合が激化するものの、最大手という腕力を生かして最高のデータ通信環境を整備することで顧客をつなぎとめることができるのではないか、と考えている。

過去の株式バリュエーション

過去の株価と一株あたり利益、PER等をまとめた。

2015TLSshareprice

過去10年にわたり、一株あたり配当は非常に安定している。2006年や2010年には配当利回り10%弱と驚異的な高さを誇っている。この当時は豪州の政策金利が4%以上と非常に高かったため、資金が債券に回って株価が下がったものと考えられる。今でも利回り5.4%と非常に高い。

分析を終えて

テルストラは、私が大学の英文会計のクラスで最初に勉強した会社です。当時はAccounts Receivableなどの単語の意味もサッパリ分からない状態でして、テルストラの財務諸表を見ながら勉強したものでした。

当時は収益性について何も考えていませんでしたが、改めて見てみると非常に安定して高い収益を上げている超優良企業といえると思います。また、配当も安定しており2010年に1億円程度買っておけば後はほっといても年間950万円(税前)の収入を期待できます。

私も豪ドルで100万ドルためたのちには、主力銘柄にしたいと思います。

現時点では大ばくちの成長銘柄に賭けているので、安定企業のテルストラには投資しませんが・・・。

また景気が上がって配当利回りがあがった頃に、うまくテルストラを購入したいと思っています。はたしてそんな日が来るのでしょうか笑。気長に待とうと思います。

 

【銘柄分析】Telstra(TLS)〔2015年6月期〕」への3件のフィードバック

  1. デイちゃん

    テルストラの記事、ありがとうございました。m(__)m
    やっぱり現地で実際に見ないとわからないことも多いので、とても参考になりました。
    レポートを見ると、投資対象としてはいいのかな?と思いました。
    今5500株持っています。(^^)

    オーストラリアは、中国の影響か?通貨や株価が下がってるのですが、経済自体は堅調なのでは?と個人的には思っています。
    管理人様、オーストラリアの景気はどうですか?
    現地の景気のよさは、結局、現地じゃないと感じられないと思いますので・・・。

    そうそう、私、NABやANZをたらふく持っています。そして今、彼らの株価は下がっていってます。(T_T)
    なので、NABとかANZとかすごくいいよ!というレポートを期待しています。(^^)
    ではでは。

    返信
    1. ディンゴ 投稿作成者

      デイちゃんさん

      もし私が配当生活をするとしたら、テルストラはポートフォリオの主力になろうかと思います。
      5500株も持っているんですね!デイちゃんさんは資産家かと存じます。うらやましいです。
      私の持ち株はすべてブログで晒していますが、最近含み損で恥ずかしいです笑。

      さてオーストラリア経済ですが、私が住んでいる東海岸(シドニー・メルボルン)では不動産価格も上がっており肌感覚では経済は好調に見えます。最近は不動産価格も天井をつけているようです。
      しかしクイーンズランド州や西オーストラリア州といった資源ビジネスが主な州では、明らかに景気後退していると言われています。大きい国ですので州によって景気も異なるようです。間違いなく言えるのは、オーストラリア経済に占める中国の影響は大きいということです。街中を歩いても中国人と思われるアジア系の方々を非常に多く見かけます。(そういう私もアジア系ですが笑)

      アングロサクソンがしっかりとした統治システムを作りこんだので、オーストラリアは個人的に良い国だと思いますし、それに魅力を感じて世界中から移民が来るので人口も増えています。出生率も1.9と先進国では高く、人口増に伴い今後も経済は堅調に成長していくのではと考えています。

      リクエストがあったNABやANZですが、恥ずかしながら私は銀行株や保険株といった金融株の価値評価方法に自信がございません・・・。まだ勉強中です。銀行株の配当利率は高いですが、今後の業績見通しは自信をもって「こうだ!」とは言えずにおります。銀行株については今後研究していきたいと考えております。ウォーレン・バフェットでしたら銀行株や金融株について非常に詳しいのでしょうけどね。

      仕事が立て込んでおりなかなかブログを更新する時間を取れませんが、今後しばらくは安定した配当が期待できるインフラ関連株についてアップしていきたいと考えております。
      今後ともよろしくお願いいたします。

      返信
      1. デイちゃん

        ありがとうございます。
        やはり中国の影響は大きいのですね・・・。
        国自体の成長性はあると思うのですが、中国に足を引っ張られそうですね。
        ・・・と考えると、オーストラリアの内需株とかいいのかな?と思いますが。
        私はもともと豪ドル債をたくさん持っていたんですけど、利回りが低下(債券価格上昇)したのと、簿価の為替レートが高いので、債券をいったん売却して高配当株にかえてみたらいいかな?と思って。・・・そして株が下がっていってます。(^_^;)
        NABやANZはいきなり増資したりして株価がドーンと下がって。何なんでしょうね。ANZは配当利回りは8%くらいまで上昇しました。それは買いなのか?売りなのか?
        日本でもマイナス金利で銀行株が急落して、配当利回りは急上昇してますが・・・。
        インフラ関連はいいな・・と思うのですが、どうも日本の証券会社では取り扱いがないようです。なので、有望な企業のレポートを指をくわえて見てるだけになりそうです。(笑)
        更新楽しみにしています。ではでは。

        返信

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