【銘柄分析】IDP Education(IEL)〔2016年6月期〕

前回の記事でも書きましたが、トランプ大統領の言動により、「今のアメリカは不安だ」、ということでオーストラリアへの留学生が増える可能性があるかもしれません。オーストラリアへの留学生向けビジネスを行っている会社にとって、ビジネス拡大のチャンスになる可能性があります。

今回は、(主に)オーストラリアへの留学サービスおよびIELTSという英語検定テストを手掛けるIDP Educationを紹介したいと思います。

会社概要

IDP Education (IDP)はオーストラリアのメルボルンに本拠を構える、留学生向けビジネス・英語テストIELTSの運営・東南アジアの語学学校運営の教育関連ビジネスを行う企業。1970年より教育ビジネスを行っている。ASXへの上場は2015年12月。Education Australiaという、オーストラリアの38大学が出資する企業がIIDPの株式の50%を保有している。残りの50%はSEEKというオーストラリアのオンライン上の採用ホームページを運営している会社が保有していたが、2015年12月に手放し、ASXに株式を上場することとなった。

留学生向けビジネスでは、オーストラリアや他の英語圏への留学を考えている生徒に、大学の紹介・留学ビザ申請・留学先のアパート/寮の手配などの各種支援を行っている。IDPは留学生を送り込んだ大学から、授業料の一部をフィーとして受け取るというビジネスモデルである。30か国に93もの事務所を構え、アジアを中心に留学生を得ている。下記表(2016年10月株主総会資料)の通り、留学生の出身地は中国・インドが多く、留学先はオーストラリアが多い。

IELTS(International English Language Testing System, アイエルツと読む)の運営ビジネスは、受験者から1回あたり受験料250豪ドルを受け取るというビジネスモデル。IELTSはオーストラリア・ニュージーランド・イギリス・カナダなどの大学や政府機関で用いられる、英語力を測るテストである。IELTSのテスト1回ごとに30ポンド(推定)のロイヤルティを、イギリスのCambridge AssessmentというIETLSを考案・IDPと共同で権利を保有している企業に支払っている。

語学学校運営ビジネスは、タイ・カンボジア・ベトナムで運営する英語学校の運営により生徒から授業料を得るというビジネスモデルである。

会計年度は7月~6月。2016年6月期の売上は約3億6200万豪ドル(約307億円:AUD/JPY=85) 。純利益は4000万豪ドル(約34億円)。

各ビジネスの売り上げ構成比は下記表の通り、留学生向けが29%、IELTSテスト運営が65%, 語学学校運営が6%となっている。

株価はグーグルファイナンスで確認できる。IR情報は同社ホームページより確認できる。

財務諸表分析

Annual Reportより筆者が過去のデータをまとめた。2015年12月上場のため、過去2年分しかデータがないが、売上・純利益については2016年6月期Annual Report過去5年分に記載があった。

留学生向けサービス・テストの運営・語学学校の運営ということで、固定資産がほとんどかからないビジネスモデルであり、投下資本利益率は非常に高い数値になっている。また、過去5年で売上・利益ともに二ケタを超える成長を続けている。

2016年6月30日のバランスシートは以下の通り。

有利子負債はゼロ。バランスシートの20%以上を現金が占めており、財務体質は非常に良好である。

キャッシュフローの推移は以下の通り。

過去2年分しかデータがないが、しっかりと営業キャッシュフローを確保している。営業キャッシュフローと比較すると投資キャッシュフローは少ない。固定費の少ないビジネスモデルであることがわかる。

ビジネスモデル分析(高収益の要因)

ビジネスモデルは以下の通り。

【競合企業の新規参入】

  • 留学生向けビジネス:新規参入を防ぐ手立てはない。大学としては、どんなエージェントであれ留学生を連れてきてくれるのであれば、フィーは払う。IDPはIELTSを運営している会社、ということで留学生へのマーケティング活動において何等かの強みがある可能性はある。
  • IELTS運営ビジネス:IELTSの権利を売却しない限り、競合他社は新規参入はできない。IDPの他にCambridge Assessment, British CouncilがIELTSを保有しており、IDP以外の2社が権利を売却する可能性はある。
  • 語学学校運営ビジネス:これも新規参入を防ぐ手立てはない。しかし、「IELTS運営会社による語学学校」ということで差別化を図れるかもしれない。

【無形資産】

IELTSの運営権と、留学生を送り込む大学エージェント契約である。前者は特に契約期限はない。IELTS運営権は大きな無形資産と言える。

【スイッチングコスト】

留学生向けビジネスと語学学校ビジネスは顧客(大学・学生)にとってスイッチングコストは低い。しかし、IELTSは大学や政府機関に認定されている以上、受験者はそれ以外のテストを受けることができない。

【ネットワーク効果】

受験者が多ければ多いほどIELTSを英語力測定に選ぶ大学や政府機関が多くなるし、より多くの大学や政府機関がIELTSを英語力測定テストに選定すると、ますます多くの受験者が増えるだろう。IELTS運営ビジネスについては、ネットワーク効果があるように思われる。

【コスト優位性】

コスト優位性は無い。

【まとめ】

IELTSというオーストラリアはじめ多くの大学・政府機関に利用されている英語能力試験の運営権を保有していることが最大の強みであると言える。

最近の状況

留学生向けビジネスでは、中国における拠点を構えたことや、留学生向けサイトを運営するHotcourseを買収するなどして、引き続きビジネスの拡大を継続している。

また、IELTSテストをスペイン・ギリシア・ネパール・イタリアそして日本にも広げている。

リスク

留学生ビジネスでは、大学との提携が切れることや、留学生が競合他社に流れてしまうことが懸念される。IELTS運営ビジネスでは、大学や政府機関がIELTS以外のテストを英語能力を測る試験として利用し始めることが懸念点ではある。しかし、今のところそのような動きはない。

一方、IDPが留学生の多くを送っているオーストラリアにおいて政府の規制が強化され、留学生がビザを取りにくくなった場合は、同社の売上減少要因となる。実際、2009年にオーストラリアのビザ要件が厳しくなったため同社の売り上げは下落した。しかし、現時点でオーストラリア政府は留学生を積極的に受け入れる政策を進めているため、大きなリスクではないと思われる。

今後の展開

2016年の株主総会資料にも記載があったが、今後留学生ビジネスでは対面によるアドバイスから、オンライに移行し、より規模の経済を生かしたビジネスモデルにする旨を明確にしている。

アメリカへの留学生の数がトランプ政権により下降することを想定すると、オーストラリアへの留学を主な商品としている同社にとっては、追い風の状況が続くと思われる。

過去の株式バリュエーション

過去の株価と一株あたり利益、PER等をまとめた。

2015年の株価は上場時の値段。PERは26倍近くと、かなり割高な水準である。今後しばらく成長が期待されるとしても、少し割高かと思われる。

分析を終えて

前回の記事で、私が過去IELTSに苦しめられた恨みつらみを書きました。まさかASXにIELST運営会社が上場しているとは思わず、当時の苦しさを思い出しつつIDPのAnnual Reportなどを読んでいましたが、オーストラリアで最も有力な英語テスト運営権を持つという強みを生かしたビジネスモデルだなと感じました。

高得点をとらないとビザの発給や大学への入学が果たせないとなると、何度も何度も受験することになります。オーストラリアなどの安定した先進国に留学・就職したい人間はアジアを中心に非常にたくさんいるので、今後も同社は成長を続けると思われます。同社のコスト構造はほとんどが変動費であるため、爆発できな利益率の上昇は期待できないものの、成長のために追加の資本が必要というわけでもなく、営業キャッシュフローを安定的に稼ぎながら成長していくものと思います。更に、オンラインでの留学生向けプラットフォームの運営にうまくいけば、規模の経済も得ることができます。成功するかどうか、現時点で全く不明ですが今後が楽しみな企業です。

今は株価水準が高すぎて買うことはできませんが、PERが20倍以下におちたら、購入も考えたいと思います。

【銘柄分析】IDP Education(IEL)〔2016年6月期〕」への2件のフィードバック

  1. デイちゃん

    教えてくれてありがとうございました。
    昔東京で働いていた時は、TOEICを毎年受けてましたが、英語力が上がることはありませんでしたね・・・。
    今は田舎でいるので、英語にふれることもなく(笑)、のんびりと生きています。

    日本の会社で教育関係となると、学習塾などが上場してるんですが、少子化で先細り傾向です。
    これから英語圏へ行きたいという人が多くなりそうですし、有望ですね。

    返信
    1. ディンゴ 投稿作成者

      デイちゃんさん

      日本だとTOEICが一番普及している英語テストですが、日本国外だとそうでもないんですよね。オーストラリアでは私が知っている限り、IELTSが一番普及しているテストだと思います。
      確かに日本の学習塾は少子化で先細りかもしれません。IDPはアジアの留学生向けの商売なので、中産階級がどんどん増えるアジア圏では顧客はますます増える一方であり、今後有望だと思います。親もなけなしのお金を子供にバンバン使って英語力をつけさせようとするでしょうしね。株価が高すぎるのが残念ですが・・・もうすこし下がったら買ってみたい銘柄ではあります。

      返信

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